って見て御座る様子で御座います。
――私は呉様のお家に祟《たた》る絵巻物があるという事をかねてから噂には聞いておりました。けれどもそれはもう余程大昔の事で、今の世の中に、そのような事があろう筈はない。あっても話ばかりと思うておりましたけに、真逆《まさか》その巻物がソレであろうとは夢にも思いつきません。やはり眼が悪いのだろうと思いまして、若旦那に気取《けど》られぬように、出来るだけ顔を近付けて見ましたけれども、白い紙はやはり白い紙で、いくら眼をこすりましても、物が書いてある模様は見えません。
――サア私は不思議でならなくなりました。若旦那が何を見て御座るのか、一つ聞いて見ようと思いますと、急いで岩角を降りました。そうしてワザと遠廻りをして、若旦那の前に出てヒョッコリ顔を合わせますと、若旦那は私が近寄りましたのに気もつかれぬ様子で、半開きの巻物を両手に持ったまま、西の方の真赤になった空を見て何かボンヤリと考えて御座るようで御座います。そこで私が咳払いを一つ致しまして「モシ若旦那」と声をかけますと、ビックリさっしゃった様子で、私の顔をツクヅク見ておいでになりましたが「おお、仙五郎か。どう
前へ
次へ
全939ページ中547ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング