たる麻酔薬の影響によって起りたる嗅神経の異状、又は、使用せられたる薬剤の口中粘膜よりの再分泌等によって来《きた》れるものに非ず。同夜、何等かの水に非ざる液体(例えば香水、化粧水、又はクリーニング用の揮発油の如きもの)等を口にしたる証左にして、その他の病的現象の大部分も、該液体の作用と認むるを自然に近きものと思惟さる。然れども、この点に関する諸般の調査が、全然閑却されあるは、止むを得ざる事とはいえ、千秋の遺憾と云うべし。
 (ロ)悪夢[#「悪夢」に傍点] 又呉一郎が、事件当夜一時五分前後に覚醒し、次いで就寝したる以後に連続して見たりと信じおれる悪夢は、実は第二回の覚醒以前の僅少時間に見たるものが記憶に止まりたるものなる事、普通の夢と同様にして、夢中遊行の内容とは直接の関係を有せず。却って夢中遊行中に口にせし、何者かの影響なるべき事は前段の説明によって明かなるべし。
[#ここで字下げ終わり]

  【八】 夢中遊行の行われたる時間、その他

 如上述べ来れる理由に依り、この事件を考察する時は、呉一郎の当夜の発作は、第一回と、第二回の覚醒の間に於て行われたるものと推定するを得べく、被害者の絶
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