》の支棒に接触する部分は、磨滅を防ぐためと支棒の作用の堅確を期するため、新しく亜鉛《あえん》板を以て蔽《おお》いありたるも、這《こ》は却《かえ》って軽微の力を以て、支棒を脱落せしめ得る原因となりたるものの如し。
(乙[#「乙」は太字])被害者千世子は同夜午前二時――三時の間に、背面より絹製の帯締《おびじめ》を以て絞殺され、寝具を蹴散《けち》らし、畳の上を輾転《てんてん》して藻掻《もが》き苦しむなど、甚しき苦悶の跡を残したるまま絶命せるものを、更に階段の処に持行きて手摺《てすり》より細帯にて吊し下げ、階段の降り口に正面させて縊死《いし》と見せかけたる事明らかなり。しかも、その絞首の跡を示す斑痕が、二重もしくは三重となりおる状況は、犯行当時に於ても明瞭に認められし事を察し得るに拘わらず、更にこれに縊死を装《よそ》わしめたるは、一見、浅薄なる犯行隠蔽の手段なるが如きも、実は左《さ》に非《あら》ず、他の指紋等を消去りたる犯人の行動と比較考慮する時は、その矛盾せる行為の相互間に生ずる一種の錯覚を以て、犯人に対する目星《めぼし》を誤らしめんがために執《と》りたる極めて巧妙なる手段なりと思惟《しい
前へ
次へ
全939ページ中502ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング