関する報道を新聞紙上に発見するや、極めて稀に存在する夢遊病の好適例に非《あら》ずやと思惟《しい》して出張したるところ、この直方《のうがた》地方は元来筑豊炭田の中心地に位置し、日本屈指の殺傷事件の本場たり。従って警察方面の捜索方針も単純|且《かつ》粗放にして、現場の証拠等は事件発生の翌日に於て、完膚《かんぷ》なき迄に攪乱蹂躙《かくらんじゅうりん》されおり、充分なる調査を遂《と》ぐるを得ず、然《しか》れ共|尚《なお》、現場の形況及び前記各項の談話、警察当事者の記憶、近隣の噂等を綜合したる結果、この事件の特徴として左の諸項を認め得たり。
 (甲[#「甲」は太字])犯行の現場たる女塾内には、呉一郎|母子《おやこ》と塾生に関する事跡及び勝手口の唯一の締りとされおりたる径約一|寸《すん》、長さ四尺一寸|余《あまり》の竹の支棒《つっかいぼう》が、不明の原因にて土間に脱落しおりたる以外に、犯人の指紋、足跡等の一切を認め居ず、拭い消したるものなるや否やも不明なり。尚《なお》、右支棒は外より板戸を強く押せば、指をさし入れて外《はず》し得る位置に在りたるものなる事を推定し得たり。而して右板戸の縁辺《ふちへん
前へ 次へ
全939ページ中501ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング