は親殺しにならずに済みました。
――母を殺した者が僕でない事が皆さんにわかれば、僕はもうそれで沢山です。何も云う事はありません。けれども、その犯人をお探しになる参考になりますのなら、何でも尋ねて下さい。ずっと昔の事は母が話さずに死にましたから、僕が大きくなって後《のち》の事しか知らないんですけど、お話して悪いような事は一つも無いと思います。
――僕は明治四十年の末に、東京の近くの駒沢村で生れたのだそうです。父のことは何も知りません。([#ここから割り注]註に曰く……呉一郎の生所は事実と相違せる疑あり。然れども研究上には別に差支えなきを以てここには訂正せず。[#ここで割り注終わり])
――母は生れた時からこの伯母と二人で姪の浜に住んでいたそうですが、十七の年に、絵と刺繍を勉強するといってこの伯母の家を出たのだそうで、その後《のち》、僕の父を尋ねながら東京へ行って、方々を探している中《うち》に僕が生れたのだそうです。「男ってものは、偉ければ偉いほど嘘を吐《つ》く」って母はよくそう云っておりましたが、大方、父の事を怨《うら》んでそう云ったのでしょう(赤面)。ですけど父の事を尋ねますと母
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