経細胞の極度の疲労のために、発作以前にもさかのぼったアラユル過去の記憶がタタキ付けられて活躍不能になってしまった。すなわち『逆行性健忘症』に陥った……というぐらいの事は新聞記事を読んだだけでチャント見当がついている。そこいらによくある奴で、何も別に吾輩を呼出さなくとも君が説明してやれば、それで沢山だと思うがね」
「ハイ。それがその……今度の事件では私の信用が覆《くつが》えりまして、私の鑑定だけでは当《あて》にならなくなりましたために、裁判所の方でも弱っておりますようで……事に依ると呉一郎少年は殺人狂ではないか……なぞと申しておるようで御座いますが……」
「フーム。そいつは怪《け》しからんナ。素人とは云い条、司法官の癖に無智にも程がある。第一殺人狂なぞいう精神病がこの世の中に存在すると思っているからして人を馬鹿にしているじゃないか。人を殺したからといって、すぐに殺人狂だなぞいうのは故殺と謀殺とを一緒にするよりも非道《ひど》い間違いだぜ」
「それはそうで……」
「そうだとも……君なぞは疾《と》っくに気が付いているだろうが、精神病鑑定の参考材料としてその発病前後の言動が如何に有力なものである
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