白に予言しておられたので御座います」
「……亡くなられた正木博士が……僕の今日の事を予言……」
「さようさよう。貴方を当大学の至宝として、大切に御介抱申上げているうちには、キット元の通りの精神意識に立ち帰られるであろう。その正木先生の偉大な学説の原理を、その原理から生れて来た実験の効果を、御自身に証明されるであろうことを、正木先生は断々乎として言明しておられたので御座います。……のみならず、果して貴方が、正木先生のお言葉の通りに、過去の御記憶の全部を回復される事に相成りますれば、その必然的な結果として、貴方が嘗《かつ》て御関係になりました、殆んど空前とも申すべき怪奇、悽愴を極めた犯罪事件の真相をも、同時に思い出されるであろう事を、かく申す私までも、信じて疑わなかったので御座います。むろん、只今も同様に、その事を固く信じているので御座いますが……」
「……空前の……空前の犯罪事件……僕が関係した……」
「さよう。とりあえず空前とは申しましたものの、或《あるい》は絶後になるかも知れぬと考えられておりますほどの異常な事件で御座います」
「……そ……それは……ドンナ事件……」
と、私は息を吐
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