コビリ付き、冷え固まっている社交上の因襲、科学に対する迷信、外国の模倣、死んだ道徳観念……なぞいう現代社会の所謂《いわゆる》常識なるものに飽き果《はて》て、変化溌溂、奔放自在なる生命の真実性そのものの表現を渇望する心……すなわち溢るるばかりの好奇心に輝く眼《まなこ》を以て、吾輩の畢生《ひっせい》の研究事業たる「心理遺伝」の実験を見られると、立所《たちどころ》にこれを理解された。一般の精神病者なるものが、如何なる力に支配されて、何事を行っている者であるかという事実を何の苦もなく首肯された。……のみならず諸君の好奇心は、それだけに満足しないで、更に、百尺|竿頭《かんとう》一歩を進めた質問を発せしめた。曰《いわ》く……「心理遺伝はタッタそれだけのものか」……と……。すなわち諸君の頭脳は、吾輩の二十年分の研究と相|伯仲《はくちゅう》する……否……正木キチガイ博士の頭のスピード以上の明快なるスピードを以て……イヤ……有難う。まだ拍手するには早いよ……この点に就て吾輩は特に、満腔の敬意と、感謝とを表明する次第である。
 ……何を隠そう。吾輩の所謂「極端な心理遺伝」が、ただ、そんな風にして精神病者に
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