いつも眉の上の処に、手拭《てぬぐい》で後鉢巻《うしろはちまき》を致しておりましたところから来た綽名だというので御座いますから、如何にその働らき振りが猛烈であったかが、おわかりになるでしょう。夜が明けてから暮れる迄の間に休むのはタッタ一度だけ……福岡、舞鶴城の天守の櫓《やぐら》で、午《うま》の刻……只今の正午のお太鼓がド――ンと聞えますと、すぐに鍬を放り出して、近くの堤《どて》か草原《くさばら》の木蔭か軒下《のきした》に行って弁当を使う。それから約|半刻《はんとき》……と申しますと只今の一時間で御座いますな。その間、午睡《ひるね》をしてから、ムックリ眼を醒ましますと又、日が落ちて、手元が見えなくなるまで休まないというのですから豪気なもので……多分この男も一種の偏執性性格といったような素質を持った人間で御座いましたろうか。その赤黒い額に残った白い、横一文字の鉢巻の痕跡《あと》が、息を引き取った後迄《のちまで》も消えなかった。殿様の前に出た時も同様で御座いましたので、お側に居った慌て者が「コレコレ鉢巻を取れ」と申しましたところから、殿様が大層、興がらせられて、斯様《かよう》な苗字を賜わったと
前へ 次へ
全939ページ中368ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング