が……」
 と大声をあげるかと思うと、思い出したように右手を高くあげて左右に動かしております。
 その背後を一人の奇妙な姿をした女が通って行きます。御覧の通り、まことに下品な、シャクレた顔をした中年増《ちゅうどしま》で、顔一面に塗り附《つけ》ております泥は、厚化粧のつもりだそうで御座います。着物の裾も露《あら》わな素跣足《すあし》で、ボロボロの丸帯を長々と引ずっておりますが、誰がこしらえてやりましたものか、ボール紙に赤インキを塗った王冠の形の物を、ザンバラの頭の上に載せて、落ちないようにあおのきつつジロリジロリと左右を睨《ね》めまわしながら女王気取りで、行きつ戻りつ致しておりますところはナカナカの奇観で御座います。
 その女が前を横切る度毎《たびごと》に、桐の木の根方《ねもと》に土下座をして、あまたたび礼拝を捧げておりまする髯《ひげ》だらけの大男は、長崎の某小学校の校長で御座います。親代々の耶蘇《やそ》教信心が、この男に到って最高潮に達しました結果、この病院へ収容されますと、煉瓦や屋根瓦の破片に聖像を彫って、同室の患者たちに拝ませたり致しておりましたが、只今は又、彼《か》の女王気取の狂
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