ったりしている教授連中までが、一斉に奮起して、「あの非常識にして暴慢、不謹慎な、狂人学者《ヒポマニー》をタタキ出せ。然《しか》らずむば赤煉瓦の中へタタキ込んでしまえ」というので、机を叩いて総長に迫ったという。
 これを聞いた時には流石《さすが》に海千山千の吾輩も、尻に帆を上げかけたね。大学の中だけは学術研究の安全地帯だと思っていたのが、豈計《あにはか》らんやのビックリ箱と来たもんだからね。幸いにして総長が、行政官じみた事なかれ主義の男で、体《てい》よくマアマア式に切り抜けたお蔭で、吾輩も今日までマアマアに有り付いて来た訳だが、それにしても考えて見れば阿呆《あほ》らしい話じゃないか。ドウセ博士とか、大学教授とかになる人物なら、一番上等のところで名誉狂か、研究狂程度の連中にきまっている。それを恥かしいとも思わないで、今一枚|上《う》わ手《て》の名誉狂、兼、研究狂である吾輩を捉まえて、キチガイ呼ばわりをするんだから、片腹痛からざるを得ないではないか。この時に吾輩が、如何に片腹痛かったかは、吾輩の親友若林学部長が知っている。
「コンナ塩梅《あんばい》式では吾輩の精神解剖学や精神生理、精神病理、
前へ 次へ
全939ページ中350ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング