又、寝がけに「彼女に会いたいな」と思って眼を閉じていると、その一念の官能的な刺戟だけが眠り残っていて、彼女の処へ行きたくてたまらないのに、どうしても行けない自烈度《じれった》い気持を、夢として描きあらわす。彼女の姿は美しい花とか、鳥とか、風景とかいうものによって象徴されつつ彼の前に笑《え》み輝いているが、それを手に入れようとすると、色々な邪魔が出て来てなかなか近附けない。その細胞の記憶に残っている太古時代の天変地妖が、突然、眼の前に現われて来るかと思うと、祖先の原人が住んでいた地方の物凄い高山、断崖が見えて来る。その中を祖父が落《おち》ぶれて乞食していた時の気持になったり、親父《おやじ》が泳ぎ渡った大川の光景を、同じ思いをして泳ぎ渡ったりする。又は猿になって山を越えたり、魚になって海に潜ったりしつつ、千辛万苦してヤット彼女を……花、もしくは鳥を手に入れる事が出来た……と思うと、最初の自烈度《じれった》い気持がなくなるために、その夢もお終《しま》いになって目を醒ます。
そのほか寝小便のお蔭で、太古の大洪水の夢を見る。鼻が詰まったお蔭で、溺れ死にかかった少年時代の苦しみを今一度、夢に描か
前へ
次へ
全939ページ中325ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング