来るのである。
 すべての細胞はその一個一個が、吾々一個人の生命と同等、もしくはそれ以上の意識内容と、霊能を持っている一個の生命である。だから、すべての細胞は、それが何か仕事をしている限り、その労作に伴うて養分を吸収し、発育し、分裂、増殖し、疲労し、老死し、分解、消滅して行きつつある事は近代医学の証明しているところである。しかもその細胞の一粒一粒自身が、その労作し、発育し、分裂し、増殖し、疲労し、分解し、消滅して行く間に、その仕事に対する苦しみや、楽しみを吾々個人と同等に、否それ以上に意識している……と同時に、そうした楽しみや苦しみに対して、吾々個人が感ずると同等、もしくはそれ以上の聯想、想像、空想等の奇怪、変幻を極めた感想を無辺際に逞《たくま》しくして行く事は、恰《あたか》も一個の国家が興って亡びて行くまでの間に千万無量の芸術作品を残して行くのと同じ事である。
 この事実を端的に立証しているものが、即ち吾々の見る夢である。
 そもそも夢というものは、人間の全身が眠っている間に、その体内の或る一部分の細胞の霊能が、何かの刺戟で眼を覚まして活躍している。その眼覚めている細胞自身の意識状態
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