れてお互いに調和を保ち合いつつ、焦点を作って行くのを所謂《いわゆる》、普通人と名付けているのであるが、しかし……人間の心理作用というものは一人一人ごとに、それぞれ違った癖があるもので、その癖を先祖が矯正しないまま子孫に伝えて来ると、代を重ねるうちにダンダン非道《ひど》くなる事がある。たとえば或る一つの事をどこまでも思い詰める癖を遺伝した女が、どうかした拍子に或る一人の男を見初《みそ》めたとする……寝ても醒めても会いたい、見たい……一緒になりたいといったような事ばかりを繰返し繰返し考え続けて行く事になると、そうした『恋しい意識』を反射交感する脳髄の一部分がトウトウくたびれて動けなくなる。そこでその一部分で反射交感されていた恋しい意識が、次第次第に遊離して、空想、妄想と凝《こ》り固まった挙句《あげく》、執念の蛇式の夢中遊行を初める。夜も昼もさま[#「さま」に傍点]のお姿を空中に描きあらわして、その事ばかりを口走らせるようになる。そうなると又、その恋しい係りの交感台の交感嬢がイヨイヨやり切れなくなってヘタバリ込む。恋しい意識がイヨイヨ完全に遊離して活躍空転する。ますます発狂の度合が深くなる。
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