この脳髄のトリックの真相を……悪魔以上の悪魔の横道《おうどう》ぶりを……。
 吾々人類は、脳髄を発見した最初の科学者ヘポメニアス以来、この『物を考える脳髄』のために飜弄され続けて来たのだ。明けても暮れてもこの脳髄の前に、自分のアタマを拝脆《はいき》させられるべく……自分の肉体と、精神の全部を挙げて奉仕させられるべく、錯覚させられ続けて来たのだ。そうして斯《か》く云うアンポンタン・ポカン自身の頭も、そうした頭の中の一個であったのだ。
 ……しかし……今やその錯覚は打ち破られなければならぬ時が来たのだ。脳髄を発見した最初の科学者ヘポメニアス氏の錯覚が清算されねばならぬ機会が来たのだ。ポカンの足下に横たわるポカンの脳髄と同様に、泥塗《どろま》みれになって終《しま》わねばならぬ時機が来たのだ。
 ……ポカンはこの十字街頭に於て、地上最初の宣言を高唱する。すなわち最尖端の学術……最末期の科学的宗教……アンポンタン・ポカン式『脳髄論』を公表する光栄を有するのだ。
 吾輩ポカンは断言する。『物を考える脳髄が、物を考える脳髄の事を考え得ない』という事は『二つの物体が、同時に、同所に存在し得ない』とい
前へ 次へ
全939ページ中269ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング