て一気に踏み潰す真似をすると同時に、ウーンと眼を眩《ま》わして床の上に引っくり返ってしまう。そうして約三四十時間も前後不覚の状態に陥って、昏々《こんこん》と眠り続けると、又もや、アンポンタン・ポカン然として眼球《めだま》をコスリコスリ起上るのだ。そうして前の通りに「わからないわからない」を繰返しながら部屋の中をグルグルと歩るきまわる。その中《うち》に又も、頭の中から眼に見えないものを取り出して足下の床の上にタタキ付ける。前後左右を見まわして、拳固を振り上げながら脳髄の演説を開始する。そうして何だか解からないものを床の上で踏み潰しては、ウーンと云って引っくり返る……というのが、この青年名探偵アンポンタン氏の日課になっているのだ。
……ところで面白いのはこのポカン博士の演説なんだ。
ポカン博士が演説をする時は、何でもどこかの往来の烈しい、電車の交叉点か何かで、繁華な人ゴミの中に立ち止まっているつもりらしい。交通巡査みたいに大手を拡げて、前後左右の群集を睨みまわす恰好をすると、イキナリ拳固を空中に舞わしながら、金切声を振り絞り初めるのだ。
「……止まれッ……。
……止まれッ……。
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