ない慣《なら》わし。切羽詰まった秘密の処分《さばき》は。古今東西いずくを問わない。金の有る無し身分の上下。是非と道理を問わないものだよ……チャカポコチャカポコ……
 ▼あ――ア。是非と道理がいえないものだよ。そんな事情で野山の涯に。迷う憐れな患者の中でも。すこし正気の残った者なら。他所の掃溜《はきだめ》あさってみたり。物を貰うて又生き延びるよ。そのうち正気に帰るにしても。そこでこの世の悲しさ辛らさが。遣瀬《やるせ》ないほど身に沁《し》み渡る。又は吾身の姿に恥じて。残る家族のためぞと思い。人を諦らめ世を諦らめて。流す涙が乞食の姿じゃ。三日続けば止められないと。聞いた気楽な世界に落ち込む。それがそこらの名物乞食じゃ。又は野臥《のぶせ》り山窩《さんか》にまじって。寺の門前。鎮守の森蔭。橋の袂《たもと》の蒲鉾小舎《かまぼこごや》で。虱《しらみ》取り取り暮しているのを。一人二人と集めてみたなら。迚《とて》も大した人数《にんず》になります。しかも左様なミジメな姿は。みんなこうした地獄のあわれを。知らぬ顔する国家や社会が。いっそ死ねよといわないばかりの。冷めたい仕打ちに消え行く数の。千か万かの一人か
前へ 次へ
全939ページ中207ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング