喚起される事になったのです。同時にその実験を初められた事が機縁となりまして正木先生御自身と、貴方と、あの六号室の令嬢との、最近の運命的な御関係を結ばれる事にもなりましたのです。これも矢張《やっぱ》り天意と申せば申されましょうが、……しかしいずれに致しましても斯様《かよう》に偉大な正木先生を、当大学に迎えて、思う存分に仕事をさせられたのは、やはり故斎藤先生の御遺徳に相違御座いません。正木先生もそのような意味からして、この肖像をここに掲げられたものに相違ないと考えられるのですが……」
私は又も深く歎息して斎藤博士の肖像を仰がずにはいられなかった。これ程の人格者、斎藤博士と、これ程の偉人正木博士と、眼の前の若林博士と、あの六号室の美少女と、そうして白痴同様の私とを一つに繋ぎ合わせているという因縁の糸の不可思議さを考えずにはおられなかった。
或る感銘深い静寂が、少時《しばらく》の間、部屋の中を流れた。けれども、それは間もなく、私が何の気もなく発した質問で破られた。
「……あッ……大正十五年の十月十九日……あの斎藤先生の写真の下に懸かっているカレンダーの日附は、斎藤先生が亡くなられてから、ち
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