取巻かれていながら、何一つとして思い出すことの出来ない私の頭のカラッポさを自覚させられて、シミジミと物悲しくなって来るばかりであった。
私は一寸《ちょっと》の間、途方に暮れたような気持になって、眼ばかりパチパチさせていたようであったが、やがて又、フト思い出したように問うた。
「ハア。ではその行衛不明になられた正木先生は、どうしてこの大学に来られるようになったのですか」
「それは斯様《かよう》な仔細《わけ》です」
と云ううちに若林博士は、出しかけていた時計を又ポケットの中に落し込んだ。弱々しい咳払いを一つして話を続けた。
「ちょうど斎藤先生の葬儀の式場に、正木先生がどこからともなく飄然《ひょうぜん》と参列しに来られたのです。多分、新聞の広告を見られたものと思われますが……それを松原総長が、葬式の済んだ後で捉《つか》まえまして、その場で斎藤先生の後任を押付けてしまったものです。これは非常な異式だったのですが、あれ程に人格の高かった斎藤先生の遺志を、外ならぬ総長が取次《とりつい》だのですから、誰一人として総長の斯様《かよう》な遣《や》り方を、異様に思う者はありませんでした。却《かえ》って
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