…彼女にハッキリした返事を聞かすべく……。
こうして私は何十分の間……もしくは何時間のあいだ、この部屋の中を狂いまわったか知らない。けれども私の頭の中は依然として空虚《からっぽ》であった。彼女に関係した記憶は勿論のこと、私自身に就《つ》いても何一つとして思い出した事も、発見した事もなかった。カラッポの記憶の中に、空《から》っぽの私が生きている。それがアラレもない女の叫び声に逐《お》いまわされながら、ヤミクモに藻掻《もが》きまわっているばかりの私であった。
そのうちに壁の向うの少女の叫び声が弱って来た。次第次第に糸のように甲走《かんばし》って来て、しまいには息も絶え絶えの泣き声ばかりになって、とうとう以前《もと》の通りの森閑とした深夜の四壁に立ち帰って行った。
同時に私も疲れた。狂いくたびれて、考えくたびれた。扉《ドア》の外の廊下の突当りと思うあたりで、カックカックと調子よく動く大きな時計の音を聞きつつ、自分が突立っているのか、座っているのか……いつ……何が……どうなったやらわからない最初の無意識状態に、ズンズン落ち帰って行った……。
……コトリ……と音がした。
気が付くと私
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