どんなに残忍非道な所業を繰返しつつ、他人の耳目を眩《くら》まして来たか……そうしてそのような因果に因果を重ねた心理状態を、ドンナ風にして胎児自身に遺伝して来たかというような事実を、胎児自身の直接の主観として、詳細、明白に描きあらわすところの、驚駭《きょうがい》と、戦慄とを極めた大悪夢である事が、人間の肉体、及《および》、精神の解剖的観察によって、直接、間接に推定され得る……と主張している。但《ただし》、それは胎児自身が記録した事実でもなければ、大人の記録に残っている事でもないので、いわば一つの推測に過ぎない。だから学術上の価値は認められない。卒業論文としての点数も零《ゼロ》である……という事に諸君の御意見は一致しているようである。
……これは一応、御尤《ごもっと》も千万のように聞こえるが……しかし……私は失礼ながら、ここで一つ諸君にお尋ねしたい事がある。それは諸君が中学時代に於て、必ず一度は眼を通されたであろう『世界歴史』というものを諸君はドウ思って読んで来られたかという事である。……そもそも世界歴史というものは、人類生活の過去に属する部分の記録で、これを個人にとってみると、自分自身
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