からで御座います。……正木先生はあの狂人焚殺の絵に描いてあるような残酷非道な精神病者の取扱い方が、二十世紀の今日に於ても、公然の秘密として、到る処に行われている事実に憤慨されまして、生涯を精神病の研究に捧ぐる決心をされたのですから……。そうして斎藤先生の御指導と御援助の下にトウトウその目的を達しられたのですから……」
「狂人焚殺……狂人の虐殺が今でも行われているのですか」
と私は独言《ひとりごと》のように呟《つぶや》いた。又も底知れぬ恐怖に囚《とら》われつつ……。しかし若林博士は平気でうなずいた。
「……行われております。遺憾なく昔の通りに行われております。否。焚《や》き殺す以上の残虐が、世界中、到る処の精神病院で、堂々と行われているので御座います。今日只今でも……」
「……そ……それはあんまり……」
と云いさして私は言葉を嚥《の》み込んだ。あんまり非道《ひど》い云い方だと思ったので……。しかし若林博士は動じなかった。私と肩を並べて、狂人焚殺の油絵と、斎藤博士の写真を見比べながら冷然とした口調で私に云い聞かせた。
「あんまりではありませぬ。儼然《げんぜん》たる事実に相違ないのです。
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