囚われながら戸棚の中を覗いて行ったが、そのうちにヤットの思いで一通り見てしまって、以前の大|卓子《テーブル》の片脇に出て来ると、思わずホッと安心の溜息をした。又もニジミ出して来る額の生汗《なまあせ》をハンカチで拭いた。そうして急に靴の踵《かかと》で半回転をして西の方に背中を向けた。
……同時に部屋の中の品物が全部、右から左へグルリと半回転して、右手の入口に近く架けられた油絵の額面が、中央の大|卓子《テーブル》越しに、私の真正面まで辷《すべ》って来てピッタリと停止した。さながらにその額面と向い合うべく、私が運命附けられていたかのように……。
私は前こごみになっていた身体《からだ》をグッと引き伸ばした。そうして改めて、長い長い深呼吸をしいしい、その古ぼけた油絵具の、黄色と、茶色と、薄ぼやけた緑色の配合に見惚《みと》れた。
その図は、西洋の火焙《ひあぶ》りか何かの光景らしかった。
三本並んだ太い生木《なまき》の柱の中央に、白髪、白髯《はくぜん》の神々しい老人が、高々と括《くく》り付けられている。その右に、瘠《や》せこけた蒼白い若者……又、老人の左側には、花輪を戴いた乱髪の女性が、そ
前へ
次へ
全939ページ中125ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング