ぬでは御座いませんでしたが、それにしても、ちっと腑《ふ》に落ちかねるところもあるようで、空恐ろしい気持ちも致しましたので、真逆《まさか》に御本尊の仏体を破って内部《なか》を見るような者もあるまいと思い思い、そのままに致しておりました。
 ――ところがその中《うち》に、月日の経つのはお早い事で、昨年の秋に相成りますと、ちょうどお彼岸の前の日の夕方の事、お八代殿と、一郎殿と、オモヨさんの三人が連れ立ってお墓掃除に見えました。その時にお八代さんは唯一人でお霊屋《たまや》の掃除をされる序《ついで》に、この方丈に立ち寄られて、茶を飲まれましたが、四方八方《よもやま》のお話の序に……まだちっと早いようじゃけれど、来年の春、一郎が六本松の学校(福岡高等学校)を卒業したならば、すぐに、モヨ子と祝言をさせようと思うが、どうであろうか……という相談で御座いました。お八代さんは、いつもこんな事を披露される前には、必ず私に話をされましたので、私は、まことに結構な事と御返事を致した事で御座いましたが、それから二人で立って本堂の縁側へ出てみますと、彼《か》の山門の横の墓所《はかしょ》の前に、お掃除を仕舞われた学校服姿の一郎殿と赤い帯を締めたオモヨさんとが、仲よさそうに並んで跼《かが》みながら、両手を合わせて御座るところが見えました。それを見るとお八代さんは何やら胸が塞《ふさ》がりましたらしく、急いで顔を押えながらお霊屋《たまや》の方へ行かれましたが、私はあとに残りまして、まことにお似つかわしいお二人の姿を見守りながら、呉様のお家の行く末の事なぞを考えるともなく考えておりますと、そのうちに、ゆくりなくも二《ふ》た昔以前のお千世殿のお話を思い出しましたので、思わずハッと致した事で御座いました。……尤もその折に、これは年寄の要らざる気苦労ではないかと考えぬでも御座いませなんだが、それでも気に懸《かか》っておりましたものと見えて、その夜になりますとどうしても寝つかれなくなったので御座います。
 ――そこで私はソロソロと起き上りましてナ……窓からさし込む月のあかりと、お燈明《とうみょう》の光を便《たよ》りに、唯一人で本堂に参りまして、御本尊様を勿体《もったい》のうは御座いましたが両手をかけて、ゆすぶり動かしてみますと、この前の時には慥《たし》かに聞えておりました物音が、すこしも致しませぬ。……のみならず
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