何とのう中味が空虚《から》になっているような手応えでは御座いませぬか。
――その時にも虫が知らせたとでも申しましょうか、私は何やら空恐ろしい気持ちが致した事で御座いました。なれども思い切って御本尊様を厨子《ずし》の中から抱え卸して、この方丈に持って参りまして、眼鏡をかけてよくよく検《あらた》めて見ますと、一面の塵埃《ちりほこり》でチョット解り難《にく》うは御座いますが、お像の首が襟の処で切り嵌《は》めになっておりまして、力を入れて揺すぶりますと抜けるようになっております。私はその時に成る程と思いました。そうして轟く胸を押し鎮《しず》めながら廊下伝いに土間に持ち出して音を立てぬように塵を払うて参りまして、この電燈《あかり》の下に毛氈《もうせん》を敷いて、その切嵌《きりは》めの処から御像の首を抜いて見ますと、ちょうどお経筒《きょうづつ》の形に刳《く》り抜いてあります底の方に、古い唐紙《とうし》に包んだ灰があるにはありますが、その灰包みのまん中は、チャント巻物の軸の形に凹《くぼ》んでおります。それを見ますと虹汀様は絵巻物を焼いたと云うてはおかれましたが、別に何か深いお考えがあった事で御座いましょう。真実は焼かずに、旧《もと》の形のままにして納めておかれましたもので、それを又、誰かが盗んで行ったもの……という事は、もはや疑いもない事と相成りました。ハイ……その外には、周囲《まわり》に詰めてありましたらしい古綿のほか、紙屑《かみくず》一つ見当りませぬ……こちらへお出で下さい。御本尊をお眼にかけましょうから。=後段備考参照[#「後段備考参照」は太字]=
――御覧の通りで御座います……これは私の不念《ぶねん》と申しましょうか、何と申しましょうか……ああ……何か事が起らねばよいがと、胸を痛めました事は一通りでは御座いませなんだ。しかし又、一方から考えますと、もしお千世殿が持って行かれたものとすれば、何の必要があっての事であろうか。又、直方であのような最後を遂《と》げられた後《のち》、今日までの間、誰が隠し持っていたものであろうか。お千世殿の亡き跡を片付けられたお八代さんが、見付け出しておらるれば一言なりとも私に話されぬ筈はないが……なぞと、とつおいつ思案に暮れておりましたところへ、この度《たび》の事が起りましたので、最早《もはや》心も言葉も及ばぬ不思議と申すよりほかに致し方が御
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