て、海老茶《えびちゃ》の袴《はかま》を穿《は》かれた千世子殿が、風呂敷包みを抱えたままこの方丈《ほうじょう》に這入って来られまして、唯一人で茶を飲んでおりました私に向って……和尚《おしょう》様……あの御本尊の真黒い仏様の中には美しい絵巻物が這入っておるとの事じゃげなが、ソッと私に見せて下さらぬか……という御話で御座います。この絵巻物の事はこの寺の開山当時の大法要以来、この界隈の名高い話と相成っておりまして、この村でも心得ている者がいくらも居る筈で御座いますから、そんな者からでも聞かれたので御座いましょうか……その時に私は笑いまして……それはもうズットの昔に灰にして終《しま》ってある故《ゆえ》、今は見せとうても見せられぬ……と申しますと……それでも、たった今、あの仏様を私がゆすぶって見たら腹の中でコトコトと音がした。何かキット這入っているに違いない……とお千世殿が云われます。私はビックリ致しまして……そんな事をする者で勿《な》い。仏罰《ぶつばち》が当りますぞ……と叱って返しました……が……お千世殿が帰られてからタッタ一人になりますと扨《さて》、何とのう心配になって参りましたので、コッソリと本堂に参りまして、勿体《もったい》のうは御座いましたが、御本尊の弥勒《みろく》様をゆすぶり立てて見ますると、成る程コトコトと音が致します。ちょうど巻物のような形のものが、内部《なか》に納まっているに違いない、と思われる手応えで……。
――私は余りの不思議に胸が轟《とどろ》くほど驚き入りました。御本尊様の胎内は、この縁起の本文に書いてありまする通りに、絵巻物を焼いた灰ばかりと思い入っておりましたので……なれども、その時に私は又思案を致しまして、これは昔|虹汀《こうてい》様が、その絵巻物を焼いたと佯《いつわ》って実は、旧《もと》の形のままにして仏像へ納めておかれたものではあるまいか。その周囲《まわり》の詰め物が、年代に連れて乾き寛《ゆる》んで、このように音を立てるのではあるまいか。絵の好きな人に、ありそうな事で、絵巻物を惜しむの余りにそんな事にして、年月を重ねて供養していたならば、次第次第に因縁も薄らぎ、祟《たた》りも熄《や》むであろうと思うて、一存で計《はか》らわれた事ではあるまいか。それならば改めて取り出して焼き棄てるべきものであろうか。どうしたものであろうか……なぞと、様々に思わ
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