の人たちはこれを聞くとみんな憤《おこ》って家中を探しましたが、成る程、坊さんの言う通り何処を探してもお金は一文もありません。
 しかたがないのでみんな坊さんにあやまって、うちへ帰ってしまいました。
 ところがどうでしょう。
 夜になると、やっぱりチャランチャランと言う音が風につれて近所の村中へきこえて来ます。
 これをきくと村の中でも力の強い意地のわるい人たちが五、六人寄ってこんな話をしました。
「あの坊主はお金がないなんてウソばかりついている。夜になるとあんなにお金の音がチャラチャラ言っているのに一文もない筈はない。大勢の人たちがお米がたべられないで困っているのに自分ばかりお金をためて知らん顔をしているなんてわるい奴だ。一つお前たちと一緒に泥棒に化けて行って、あの坊主をおどかしてお金を取り上げて、みんなにわけてやろうじゃないか」
「それがいい、それがいい」
 と言うので、村の若い人たち五、六人は黒い布で顔をかくして鎌や鉈《なた》を持って、すぐにお寺に押しかけて行きました。
 お寺に入った泥棒たちは寝ていた坊さんを引きずり起こして、
「さあ坊主、たった今勘定していたお金を出せ。出さない
前へ 次へ
全7ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング