あのお寺では夜になるとお金を数える音がする。あのケチンボの坊さんがドッサリお金を溜めているのに違いない」
 と皆言い合っておりました。
 ところがある年のこと、その近所の村々で雨が降らないためにお米がちっとも出来なくて百姓が大変に困ったことがありました。
 村の人々は申し合わせてお寺へ来て、
「和尚さん、すみませんが貴方のお金を貸して戴けますまいか。それでお米を買ってみんなたべますから。その代り来年はきっとお米を作ってあなたにたくさん上げますから」
 と手を合わせて拝みながら頼みました。しかし坊さんは知らぬ顔をしてこう言いました。
「それは困りましたね。私のところにはお金は一文もありませんよ。あるなら探して御覧なさい」
 これをきいた村の人は大変に怒りました。
「あなたは坊さんの癖に嘘をついてはいけません。あんなに毎晩毎晩お金を数えていながら一文もない筈はありません。みんな御飯がいただけないで死にそうになっているのに、そんな意地のわるいことを言うのならひどい目に合わせますぞ」
 しかし坊さんはちっとも驚きませんでした。
「ひどい目に合わせるなら合わせろ。お金は本当にないのだから」
 村
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