、指を折るようなヘマな事はしなかった。その代りに手の中から飛び出したピストルが天井にぶつかって、風車のように廻転しながら床の上に落ちて、又も二三べんトンボ返りを打った。
ハラムはそのあとからワレガネみたいな悲鳴をあげて床の上に転がり落ちた。そのまま絨毯の上をドタリドタリとノタ打ちまわると、それにつれて真赤な帯がグルグルとハラムの胴体に巻き付いて行った。
ハラムは、その間じゅう息詰まるような唸り声をあげつづけた。
「……オヒイ……サマ……オオオヒイ……サマア……アア……アア……」
妾はそれを見下しながら麻雀台の傍に突立っていた。「恋」というものの詰らなさ……アホラシサをゾクゾクするほど感じさせられながら、シンミリした火薬の煙と、腥《なまぐさ》い血の匂いの中に立ちすくんでいた。百五十キロもある大きな肉体が、椅子やテーブルを引っくり返して転がりまわるのを見守っていた……まだ死なないのか……まだ死なないのか……と思いながら……。
底本:「夢野久作全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年3月24日第1刷発行
入力:柴田卓治
校正:浅原庸子
2004年2月19日作成
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