力で、死ぬほど恐ろしいところに導いてくれてもいいわ」
 ここまで云って来ると妾は思わず羽根布団を蹴飛ばしてしまった。妾のステキな思い付きに感心してしまって、吾《わ》れ知らず身体《からだ》を前に乗り出した。両手を打ち合わせて喜んだ。
「いいかい。ハラム。妾はまだハラハラするような怖い目に会った事が一度もないんだから、お前の力でゼヒトモそんな運命にブツカルようにラドウーラ様に願って頂戴……妾は自分で気が違うほど怖い眼だの、アブナッカシイ眼にだの会ってみたくて会ってみたくて仕様がないんだから」
「……ハイ……ハハッ……」
 ハラムはやっと息詰まるような返事をした。
「その代りに御褒美には何でも上げるわ。妾はナンニモ持たないけど……妾のこの身体《からだ》でよかったらソックリお前に上げるから、八ツ裂きにでも何でもしてチョウダイ」
 ハラムはイヨイヨ肝《きも》を潰したらしかった。眼の玉を血のニジムほど剥き出した。唇をわななかして何か云おうとした。……と思うと、その次の瞬間には、みるみる血の色を復活さして、身体《からだ》じゅうを真赤な海老茶色《えびちゃいろ》にしてしまった。口をアングリと開いて、白い
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