すると一パイ喰うかも知れないと思ったんだが……いけねえいけねえ……。
 アッハッハッハッハッハッハッハッ……。
 ああア――ッ。くたびれたアッ……ト……。
 ねえ先生……話し賃に煙草を一本下さいな…………。
 ……オヤア――ッ。誰も居やがらねえ……。
 ここは監房の中だ……おかしいな。俺あサッキから一人で饒舌《しゃべ》ってたのかな……フーン……イッタイ何を饒舌《しゃべ》ってたんだろう……。
 ……桐の花が、あんなに散ってやがる…………。

 ……アッ……忘れていたッ…………。
 俺あ龍代に復讐するつもりだったんだ……彼女《あいつ》は俺に肱鉄《ひじてつ》を喰わせやがったんだ……妾《わたし》をオモチャにするつもり……って冷笑しやがったんだ。だからその通りにしてやったんだ。前科者を亭主に持たして、一泡吹かしてくれようと思ったのが、間違ってコンナ事になってしまったんだ。あべこべに俺がキチガイ扱いされる事になったんだ。
 エエッ……コンナ篦棒《べらぼう》な……不公平な……。
 俺あ谷山家に怨みがあるんだ。ココを出してくれ。不法監禁だぞ畜生……ドウスルカ見ろ……龍代の阿魔《あま》……。出してくれ出してくれ出してくれくれくれ……出してくれッ……。出して……くれエエエ――ッ……。



底本:「夢野久作全集8」ちくま文庫、筑摩書房
   1992(平成4)年1月22日第1刷発行
底本の親本:「冗談に殺す」春陽堂
   1933(昭和8)年5月15日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:柴田卓治
校正:しず
2000年10月26日公開
2006年3月15日修正
青空文庫作成ファイル:
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