んじゃないか……ハテ…いけねえいけねえ。モットよく考えて来れあよかった。どこかに辻褄の合わない処があったんだ……。ヨオシ……今度こそは……。
 エッ。昨日《きのう》も僕が同じ話をしに来たんですって……一昨日《おととい》も……ズット前から何度も何度も……アノ僕が……ヘエ……。だから先生の方でも、谷山さんに頼まれた通りに、繰り返し繰り返し詳《くわ》しい事情を説明して、ヤキモキしないように云って聞かせているが、ドウしてもわからない……僕がですか……ヘエ。おまけに自分の事と、他人の事とをチャンポンにして考えたりするので、話がだんだんトンチンカンになって来る。だから君のアタマはタシカでない。谷山家の事なんか忘れてしまって、モット気楽に養生しなければ、いつ退院出来るかわからない……ヘエ――……。それあ誰のことですか……エッ……僕のこと……ヘエ。そうして貴方は……。失礼ですが、どなたですか。
 エッ。副院長の助手さん……一緒に僕の心理状態を研究している……。
 ……ウワア……しくじったア。それじゃ何でも知っている筈だ。僕は又院長さんかと思った。院長さんなら、まだ一度も僕に会ったことがないから、もしか
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