《さんたん》たる苦心研究を積ませられたものであるが、さてそのあげく、イヨイヨ一行を谷山家に乗込ませて見ると、案ずるよりも生むが易いで、久美子の奥様振りが頗《すこぶ》る板に付いたアザヤカナものだったので、龍代の再来という評判が立って、一躍、界隈の社交界をリードするようになった。同時に家庭も極めて円満で、五人の子供達にミジンの分け隔ても見せないから、将来、谷山家の秘密に気付くものは絶対に出ない見込である……だからその事に就ては、絶対に心配しなくともいいと仰有る……ナア――ンダイ。馬鹿にしやがらア……。
 イヤ……アハハハハ……これあ失敗《しくじ》った。うっかりネタを曝《ば》らしちゃった。
 アハハハ。実はね。先生をドウかして一パイ引っかけて、マンマと首尾よく退院してくれようと思いましてね。この間から寝ないで話の筋を考えていたんです。そうしたらツイ今サッキ尻餅《しりもち》を突いた拍子に、自分の経歴を思い出したような気がしたもんですからね。こいつあ占《し》めたと思って、すぐに先生の処へ来たんですが……ハアテネ……。
 俺は一体、誰の経歴を思い出したんだろう……自分で調べた他人の経歴を思い出した
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