ころを詳細に、副院長の前で補足してしまいました。そうしてAの一身に関する相当の保護を依頼すると同時に、私の前身を公表するかしないかという重大な判断はタッタ一つ……副院長の自由意志に一任しまして、その旨を半狂人《はんきちがい》のAに詳しく云い聞かせますと、そのまま北海道に引上げてしまいました。これは申すまでもなく、万一、私の前身が公表されました場合、落付いて刑に就くべく心用意をしておくためでした。……いくら他人の秘密を預るのが商売の精神病医でも、これ程の秘密を握《にぎ》り潰《つぶ》すのは、容易な事であるまいと思いましたからね。
……エッ……何ですって……。
私の話がトンチンカンですって……。
これは怪《け》しからん。どこがトンチンカンですか。私は立派に順序を立ててお話ししているつもりですが……。
何ですか……その新聞記者のAという男の本名は、まだ思い出さないかって仰有《おっしゃ》るのですか……サア。それがまだ思い出せないのですが……モウジキに思い出すだろうと思っているんですが……。
……オヤ……何故お笑いになるのですか。
ヘエ。ここがその目黒の病院なんですか。ヘエッ。それじ
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