済んだようなものでしたが、しかし、それにしても重大問題には相違無いので、取るものも取りあえず上京して目黒の精神病院を訪問してみますと……又もシインとするほど脅《おびや》かされたのでした。頑丈な鉄の檻の中に坐り込んでいた、患者姿のAは、とりあえず見舞いに来た私の顔を、ハッキリと記憶していたばかりでなく、何やら訳のわからない紙片《かみきれ》を鉄棒の間から突出しながら、辻褄《つじつま》の合わない脅迫めいた文句を、私に向って浴びせかけるではありませんか。むろんその紙片《かみきれ》は、私の事を書いた新聞の複写か何かと思い込んでいたものに違い無いのですが……。
私はその複写拡大紙面の実物と、ブロマイドに焼付けられた妻子のグロ写真とを並べて、副院長の自室で見せてもらいましたが、それを見ているうちに初めて、自分の過去の記憶を電光のように呼び起す事が出来ました私は、あんまり烈しいショックを受けましたために、一時失神状態に陥ってしまったものです。
しかし間もなく、副院長の介抱によって正気に帰りますと、私は、すぐに非常な勇気を奮い起しまして、Aが自白した一切の事実を確認しました上に、尚《なお》足りないと
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