くしか》が現われて来ました。
その篤志家というのは、東京の目黒に在る精神病院の副院長で、その当時旭川に帰省していた、何とかいう富豪の医学士でしたが、その骸骨男……すなわちAの事を書いた新聞記事の切抜を持って、旭川署に出頭しますと、自分の研究材料としてAの身柄を引取りたい旨《むね》を、恭《うやうや》しく申出たものだそうです。もっとも最初のうちにAの精神状態を、新聞記事によって判断したその医者は、極めて著明な色情倒錯と思っていたそうで、ステキに珍らしい実例として、論文の材料にするつもりだったそうですが……ちょうど又、警察でも願ったり叶《かな》ったりのところだったので、厄払いのつもりで、よく調べもせずに引渡したものだそうですが……そうなるとそこは流石《さすが》に専門家だけあって、催眠術や、鎮静剤を巧みに使い分けながら、無事に東京まで連れて来て、自分の受持の病室に、首尾よくAを監禁してしまいました。そうして半年ばかり経過するうちに、栄養が十分に付いて来て、云う事がイクラカ筋立って来た頃を見計《みはから》って、なだめつ賺《す》かしつしながら色々と事情を聞き訊《ただ》してみますと……色情倒錯どこ
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