ろの騒ぎではない。大変な事実をAは喋舌《しゃべ》り初めたのです。
Aはその副院長の前で、谷山家の秘密を洗い渫《ざら》いサラケ出したばかりでなく、自分の発狂の真原因までも思い出して、アッサリ白状してしまったのでした。
Aは石狩川の上流を探検して、千辛万苦の末に、ようようの事で旭岳の麓の私の留守宅を探し当てたのです。そうして最早《もはや》、スッカリ原始生活に慣れ切っている久美子と、四人の子供達が、澄み切った真夏の太陽の下で、丸裸体《まるはだか》のまま遊び戯《たわむ》れている姿を、そこいらのトド松の蔭から、心ゆくまで垣間《かいま》見た訳ですが、その時のAの驚きはドンなでしたろう。夢にも想像し得なかった神秘的な光景に接して、開いた口が塞《ふさ》がらなかった事でしょう……のみならずそこでヤット一切の事情を呑み込んだAは、懐中していた新聞紙面の複写の中に在る久美子の写真と、実物とを引き合わせてみた時の喜びは又ドンナでしたろう。これこそ谷山家の一切合財を、地獄のドン底まで突き落すに足る大発見と思って、胸を轟《とどろ》かしたに違いありません。……その時まではまだ龍代が自殺していなかった筈ですから
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