ところが又、その譫語のうちに、普通人にはチンプン、カンプンの囚人用語が、チョイチョイ混っているのに気が付きますと、Aは忽《たちま》ち、今までの恐怖心理から一ペンに解放されまして、見る見る持ち前の記者本能に立ち帰ってしまったものだそうです。つまり是が非でも私の告白を絞り取って、有力な新聞|記事《だね》にすべく、アラユル努力を払った訳でしたが、その苦心努力の甲斐があって、首尾よく私が意識を回復してみますと……三度ビックリ……案外千万にもその私が、完全に過去の記憶から絶縁されている、一種の白痴同様の人間である事がわかった時には、ガッカリにもウンザリにも……今一度タタキ殺してやりたいくらい、腹が立ったものだそうです。
ところがサテその私が、頭や顔の手入れをして、見違えるような青年に生れ変ったのを見ますと、Aの気持が又もやガラリと一変してしまいました。……というのは外でもありません。Aはそこで、一つのステキもない巧妙な金儲けを思い付いたのでした。つまりA独特の猟奇《りょうき》趣味と、冒険趣味とを兼ねた、一挙三得の廃物利用を考え出しましたので、そのままグングンと仕事を運んで行ったものでした。
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