って、エサウシ山下の谷山別荘に帰り着くと、人知れずホットしいしい、ウイスキーを飲んで眠ったものだそうです。
 ところがその翌《あく》る朝のこと。何かしら近所の人々の騒ぎまわる声が耳に這入ったので、何事かと思ってAが飛び起きてみると……どうでしょう。見覚えのある私の丸裸体の屍体が、自分の寝ている離れ座敷の直ぐ下の、石段の処に流れ着いているではありませんか。……その時の気味の悪かったこと……。あの石狩川の上流で、私を撃ち落した時以上のイヤな気持ちに、ゾーッと襲われたと云いますが、それはそうでしたろう。世にも恐ろしい因縁と云えば云えるのですからね。
 しかしその屍体を、そのまんま知らん顔をして見逃がすことは、流石《さすが》にAの好奇心が承知しませんでした。のみならず、その屍体の血色や何かが、何となく違っていることが、素人眼《しろうとめ》にもわかりましたので、附近の者に手伝わせながら、気味わる気味わる石段の上の芝生に引き上げて、馳《か》け付けて来た医者と一緒に介抱をしておりますと、そのうちに意識を回復しかけた私が、非常な高熱に浮かされながら、盛んに譫語《うわごと》を云い初めたものだそうです。

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