でしょう。出来るだけ早く、私の気に入るような後妻を探してやらなければ……といったような話が、まだ龍代の百ヶ日も済まないうちから、谷山家の内輪で真剣に進められる事になりました。つまりそんな連中の私に対する信頼が、イヨイヨ明日に裏書きされる段取りになって来た訳ですが、サテそれでは誰がいいか、彼がいいか……といった具体的なところまで話が進んで参りますと、不思議な事に、私の気がドウしても進まなくなって終《しま》ったのです。前に龍代と一所になった時分とは、何だか気持が違うように思われて来たのです。しかもそればかりでなく、そうした気持を自分自身でよくよく解剖してみますと、それは死んだ龍代に気兼ねをした気持でもなければ、子供の将来を心配した訳でもないように思われるのです。なぜ気が進まないのか、自分でも判然《はっきり》しないまんまに、何だか恐ろしく気が咎《とが》めるような……何かしら大切な事を忘れているのを、ヤット思い出しかけているような気がしてなりませんので、実際、吾れながら妙チキリンな自烈度《じれった》い気持になってしまったものです。ですから私は親類達への返事をいい加減にして突然、旅行に出かけたり
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