何かしながら、色々と、その理由を考え廻してみたものですが、解らないものはイクラ考えたって解る筈がありません。のみならず、その結果スッカリ憂鬱《ゆううつ》になってしまった私は、トウトウ皆をビックリさせるような事を仕出来《しでか》してしまいました。……つまり何となく石狩川の上流に行ってみたい。どこだかわからないが自分の故郷は、石狩川の上流に在るような気がするから、そこに行ってみたら、何もかも解るに違い無い……といったような、タマラない悲壮な気持になりましたので、人知れず小型のカンバスボートや、食料などを買込みまして、無断で家を飛出しますと、一直線にエサウシの別荘に向ったものです。すると又、生憎《あいにく》なことに、ズット以前から、私のそうした素振りを不審に思って、気を付けていた者が、家《うち》の中に居りましたので、難なく途中で押えられて、小樽へ引戻されてしまったものですが……しかし先生はモウ疾《と》っくに、私のそうした気持を察しておいでになるでしょう。……ねえ先生。先生はソンナ病症の経過をイクラでも御存じでしょう。そうした不可思議極まる潜在意識の作用を、知り尽しておいでになるでしょう。
 
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