まったのです。同時にその遺書《かきおき》によって、谷山家の内輪の人々が何故《なにゆえ》に永い間、龍代の放埒と我儘を見て見ない振りをしていたか……のみならずどこの馬の骨か、牛の糞《くそ》かわからない風来坊の川流れを、よく調べもせずに炭坑王後継者として承認したか……という理由がハッキリ判明《わか》ったのですが……斯様《かよう》申しましたら先生は、もうアラカタ事情をお察しになっているでしょう。
 谷山家は、容易に他家と婚姻出来ない、忌《い》まわしい病気を遺伝した家柄なのでした。そうしてその血統と、財産とが、同時に絶滅しかけていたところを、私のお蔭で辛うじて、繋《つな》ぎ止めたという状態なのでした。
 ところがその危なっかしい血統が、龍太郎の誕生によってヤット繋ぎ止められたと思う間もなく、龍代自身の肉体に、早くもその忌《い》まわしい遺伝病の前兆が、あらわれ初めたことがわかりましたので、まことに申訳無いが貴方に……つまり私にですね……情ない姿をお見せしないうちにお別れする決心をしました。これが妾《わたし》の最後の我儘ですから、何卒《なにとぞ》おゆるし下さい。……妾は貴方を欺《だま》すまいとした妾
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