が、元来、風来坊の川流れであった私が、それから後《のち》というものは、龍代にも負けないくらい性格の一変ぶりを見せましたもので、どこで得た知識かわかりませんが、自分でも驚くほどの才能を発揮し初めたものです。
 何よりも先に、今申しました悪支配人をタタキ出して、危機に瀕した谷山家の財政をドシドシ整理して行く片手間に、その当時まで誰も着眼していなかった、鰊《にしん》の倉庫業に成功し、谷山|燻製鰊《くんせいにしん》の販路を固めて、見る見るうちに同家万代の基礎を築き初めましたので、谷山一家の私に対する信頼は弥《いや》が上にも高まるばかり……そういう私も時折りは、吾れながらの幸福感に陶酔しいしい、モットモット優越した将来の夢を、妻の龍代と語らい誓った事もありました。
 併《しか》し今から考えますと、ソウした幸福感はホンノ束《つか》の間の夢だったのです。私の一身に絡《から》まる怪奇な因縁は、中々ソレ位の事で終結《おしまい》にはなりませんでした。
 それは私共の間に、長男の龍太郎が生れてから、一年と経たない中《うち》の事でした。
 妻の龍代が突然に……それこそホントウに突然に、カルモチン自殺を遂げてし
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