「二人とも吃驚《びっくり》したでしょうねえ」
と今度はお妃が云われました。
「エエ、ほんとにビックリして二人とも顔を見合わせましてね。ニコニコ笑って……それは大変にお芽出度い夢で御座います……って云うんですの」
「ホー。どうして芽出度いのだ」
「宝物《たからもの》を盗まれたり、女中が死んだりする夢が何でそんなに芽出度いのかえ」
と王様とお妃様は又も揃ってお尋ねになりました。
「それはこうなのです。二人の女中の云うことには、この国で一番芽出度い夢は『短刀と蜘蛛』の夢と昔から言い伝えてあるって云うんです」
「フーム、そうかなあ」
「あたしは初めてききました」
と王様とお妃様は顔をお見合せになりました。
「あたしもよく知りませんけど、女中がそう云うんですの」
とオシャベリ姫は云いました。
「して、それはどういうわけで芽出度いのだ」
と王様がお尋ねになりました。
「何でも短刀と蜘蛛の夢を見るといいお婿《むこ》さんが来ると、みんなが云うのだそうです」
「まあ、それはほんとかえ」
「ほんとだそうです。けれども、そんな夢を見たことが相手のお婿さんにわかるとダメになるのだそうです。ですから
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