この塔はもう八方から兵隊に取巻かれて逃げることは出来ません。只逃げる道が一つあるきりです」
「えっ、まだ逃げる道があるのですか」
「ありますとも。あなたはさっき崖から飛び降りる時に持っておられた落下傘《パラシュート》を持っておいででしょう」
「あっ。持っています、持っています」
「それを持って飛げるのです」
と云いながら、王子は鉄の塔の絶頂の窓のところからお城の方を向いてこう叫びました。
「お父様、お母様、私がわるう御座いました。よけいなことをオシャベリして大層御心配をかけました。私はこれから姫と一所によその国へ行きます。けれどもこれから決してオシャベリはしません。本当に見たりきいたりしたことでも、よけいなことはお話しをしないようにいたしますから、どうぞ御安心下さいますように。さようなら、御機嫌よう」
こう云ううちに王子は、塔の床の上に手を突いて、涙を流しながらお暇乞《いとまご》いをしました。
オシャベリ姫もだまって涙をこぼしながら、手を突いてお暇乞いをしました。
そうして二人は落下傘《パラシュート》の紐をしっかりと掴んで、塔の上から下を目がけて飛び降りました。
二人の身体《
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