まわりますと、大変です。金の糸と銀の糸がスルスルと解けて来て、二人の女中の首に巻き付きました」
「オヤオヤ。それからどうした」
「二人の女中は驚いて立ち上って、その巻き付いた糸を取ろうとして藻掻《もが》き初めましたが、もがけばもがく程糸がほどけて来て、手や足までもからみつきました。それで女中はなおなお狂人《きちがい》のようになって床の上にころがりまわりましたが、しまいには金銀の糸がすっかり二人の女中に巻き付いて人間の糸巻きのようになって、只うんうんうなりながら床の上を転びまわるばかりでした」
「お前はそれを見ていたのか」
「エエ。あたしはこれはわるいことをした。だってあんなことを云わなければ、二人の女中はビックリしなかったでしょう。ビックリしなければ糸車をあべこべにまわさなかったでしょう。糸車をあべこべにまわさなければ、金銀の糸は女中の首に巻き付かなかったのでしょう」
「そうだ、そうだ」
「ほんとにね」
「あたしそう思って、できるだけ早く助けてやろうとしましたが、扉《と》に鍵がかかっていましたので、助けてやりようがありません」
「それは困ったな」
「それでどうしたの」
「そのうちに糸巻
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