も口を利くものがありません。だまって姫を連れて、王様の前に連れて行かれました。
王様とお妃様は、鉄のお城の中の大きな大きな鉄の室《へや》の中の、高い高い鉄の台の上に鉄の椅子を据えて、真黒な着物を着て鉄の冠をかむって坐《す》わっておりましたが、その室《へや》中のものは鉄の壁も鉄の床も、鉄の柱も鉄の天井も、それから一パイに並んでいる大将や兵隊たちの鉄の鎧も、すっかり鏡のように磨いてありまして、その中にサーチライトのような燈火《あかり》が紫色に輝いておりますので、そのマブシイ事……眼が眩《くら》んでしまいそうです。
姫は何だかこわくなって、
「これから妾をどうするのですか」
ときいてみたくてしかたがありませんでしたが、みんなだまっているところに又うっかり口を利くと、何だか大変なことになりそうなので、ジッと我慢をしていますと、鉄の兵隊の一人は姫に王様を指して、その前に行ってお辞儀をするように手真似で教えました。
姫は黙ってその通りにしました。
そうすると、王様とお妃様はジッと姫のようすを見ておりましたが、やっぱりだまってうなずいたまま二人揃って壇の上から降りて来まして、二人で両方から
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