って、
「キャッ、キャッ、キャッ、キャッ」
 と呼びました。
 すると向うの室で、
「クン……クン」
 という声がきこえまして、黒い立派な洋服を着て眼鏡をかけた大きな疣《いぼ》蛙が、黒い皮の鞄を提げてノッサノッサと出て来ました。
 その疣《いぼ》蛙は姫のそばへ来ると、鞄から虫眼鏡を出して、姫の顔を眼から鼻から口と一つ一つていねいにのぞきましたが、おしまいに黒い冷たい手で姫の手を掴もうとしました。姫は驚いて、
「アレ」
 と云って手を引っこめますと、疣蛙は眼をパチクリさせていましたが、やがて青蛙の看護婦に、
「クフン、クフン」
 と何か云いつけて出て行ってしまいました。
 そうすると、それと入れ違いに今度は赤い兵隊の服を着た赤蛙が先に立って、あとから最前の疣蛙が這入って来ると、立派な金モールの服を着た殿様蛙と、その奥さんらしいやさしい顔をした青蛙が這入って来ました。この殿様蛙夫婦が這入って来ると、室中にいた疣蛙も赤蛙も青蛙もみんな一時に床の上にひれ伏してしまいました。
 けれどもその中で疣蛙だけは頭を下げたばかりで、やがて殿様蛙の夫婦をつれて姫の前に来て、姫の眼や口や鼻を指さして、
「ク
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