暗いところに黄金色の猫の眼が二つキラキラと光っています。
オシャベリ姫は淋しくてたまらないところでしたから、この猫を見るとよろこんで、
「チョッチョッチョッ」
と呼びました。そうすると猫はすぐに姫のところへ摺《す》り寄って、咽喉《のど》をグルグル鳴らしました。
姫は猫を抱き上げてこう云いました。
「まあ……お前はどこから這入って来たの? この石の牢屋には鼠の入る穴さえ無いのに……お前、もし出るところを知っているのなら妾に教えて頂戴な!」
「ニャー」
「オヤ。お前、出て行くところを知ってるのかえ」
「ニャー」
「じゃお前、先に立って妾をつれて行っておくれな」
「ニャーニャー」
と云ううちに、猫はもう姫の手を抜け出してあるき出しながら、「こっちへいらっしゃい」と云うようにふり返りました。
オシャベリ姫は、猫が本当に牢屋の外へ連れて行ってくれるのか知らんと変に思いながら、真暗な中で時々ふりかえる猫の眼を目あてにしてソロリソロリとあるき出しますと、不思議にも狭いと思った牢屋は大変に広くて、どこまで行っても突き当りません。そのうちに何だか野原に来たようで、穿《は》いている靴の先に草っ葉
前へ
次へ
全53ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング