二人の女中は私に、その夢のことを誰にも云ってはいけないと云いました」
「まあ、お前はほんとに馬鹿だねえ……ナゼそんな大切な夢をそんなにオシャベリしてしまうの」
とお母様のお妃はほんとに残念そうに云われました。
「イイエ。お母様。あたしはお婿さんなんかいらないの。それよりもそのお話しをした方がよっぽどおもしろいの。だってこんな面白い夢を見たことは生れて初めてなのですもの」
「お前はほんとにしようがないおしゃべりだねえ。それじゃお前のお守の女中がその夢のことを外《ほか》へ話さないようにしましょう」
とお妃様が云われました。
「いいえ。構わないのよ、お母様。女中がお話しなくともあたしがお話ししますからダメですよ」
とオシャベリ姫が云いました。
王様もお妃様もおしゃべり姫のオシャベリに呆れておいでになるところへ、姫のお付きの女中が二人揃って姫の前に来て頭を下げて、
「お姫様、お化粧のお手伝いを致しにまいりました。もうじき御飯になりますから」
とお辞儀をしました。
お妃様はそれを見て、
「オオ。お前達は昨夜《ゆうべ》姫からおもしろい夢のお話をきいたそうだね」
と云われました。
王様からこう尋ねられますと、女中は吃驚《びっくり》したような顔をして顔を見合わせました。そうして二人一時にこう答えました。
「いいえ。お嬢様は夢のお話など一つも私達になさいません」
「えっ……お前達は姫から夢の話を一つもきかないのか」
と王様はこわい顔をしてお睨みになりました。
「ハイ」
「嘘を云うときかないぞ」
「嘘は申しません」
「よし。あっちへ行け」
といわれますと、女中はお辞儀をして行ってしまいました。
王様は女中が行ってしまうと、オシャベリ姫をぐっとお睨みになりました。
「コレ……オシャベリ姫。お前はなぜそんなに嘘ばかりオシャベリをするのだ」
と王様は雷のような声で姫をお叱りになりました。
けれども姫はちっともこわがらずにこう云いました。
「いいえ。私はちっとも嘘を云いません。本当にそんな夢を見て、本当にその話を女中にしたのです。女中の方が嘘をついているのです」
と云い張りました。
けれどもお父様の王様は、もう姫の云うことを本当になさいませんでした。
「お前の云うことはみんな嘘だ。その上にそんなに強情を張ってオシャベリをやめないならば、もうおれの子ではない。この国では嘘を吐《つ》いたものは石の牢屋に入れることになっているのだから、貴様もいれてやる」
と云ううちに王様は立ち上って、泣き叫ぶ姫の襟首《えりくび》をお掴《つか》みになりました。
お母様のお妃は慌ててお止めになって、
「サア姫や。嘘を吐《つ》いて済みませんでしたとお云い。これから決して嘘を吐《つ》きませんとお云い。お母さんが詫《わび》をして上げるから」
と云われましたが、姫は頭を振って「イヤイヤ」をしながら、強情を張って泣くばかりでした。
「よし。そんなに強情を張るならいよいよ勘弁できぬ」
と王様は大層腹をお立てになって、とうとうオシャベリ姫を石の牢屋に入れておしまいになりました。
石の牢屋はお城の地の下の、真暗なつめたいところにありました。
オシャベリ姫はそこに入れられて、あんまり怖いので石の上に寝たままオイオイ泣いていましたが、いつまで経っても誰も助けに来てくれません。お母様や女中の名前を呼んでも、あたりは只シンとして真暗なばかりです。
そのうちに姫は泣きくたびれて、ウトウトねむりかけますと間もなく、
「ニャー」
と云うやさしい猫の声がきこえました。
見ると、向うの暗いところに黄金色の猫の眼が二つキラキラと光っています。
オシャベリ姫は淋しくてたまらないところでしたから、この猫を見るとよろこんで、
「チョッチョッチョッ」
と呼びました。そうすると猫はすぐに姫のところへ摺《す》り寄って、咽喉《のど》をグルグル鳴らしました。
姫は猫を抱き上げてこう云いました。
「まあ……お前はどこから這入って来たの? この石の牢屋には鼠の入る穴さえ無いのに……お前、もし出るところを知っているのなら妾に教えて頂戴な!」
「ニャー」
「オヤ。お前、出て行くところを知ってるのかえ」
「ニャー」
「じゃお前、先に立って妾をつれて行っておくれな」
「ニャーニャー」
と云ううちに、猫はもう姫の手を抜け出してあるき出しながら、「こっちへいらっしゃい」と云うようにふり返りました。
オシャベリ姫は、猫が本当に牢屋の外へ連れて行ってくれるのか知らんと変に思いながら、真暗な中で時々ふりかえる猫の眼を目あてにしてソロリソロリとあるき出しますと、不思議にも狭いと思った牢屋は大変に広くて、どこまで行っても突き当りません。そのうちに何だか野原に来たようで、穿《は》いている靴の先に草っ葉
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